裁判上の離婚原因については民法770条1項に規定されています。以下1項各号についてご説明致します。

①配偶者の不貞行為

不貞行為とは、自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性交を行うことをいいます。裁判例では、ダイレクトな表現ではなく、情交関係、肉体関係などと表現されているようです。
性交が、不貞の相手方の自由な意思に基づくものであるか否かは問われませんので、例えば夫が相手方を強姦した場合にも理屈としては不貞行為ということになります。夫が風俗店を利用して行った性交についても、自由な意思に基づく配偶者以外の者との性交であり、不貞行為にあたり得ます。

②悪意の遺棄

悪意の遺棄とは、正当な理由なく民法752条の同居・協力・扶助義務を履行しないことをいいます。例えば、妻が脳血栓のため半身不随となり、身体障がい者第4級に認定されていたところ、夫は十分看護もせず、突然、離婚しろと言って家を出て行き、その後生活費を全く送金していないという例が典型的です。
ここでいう「悪意」とは、単に遺棄するというだけでなく、よりも一段と強い意志を持ち、社会的・倫理的避難に値する要素を含むものになります。ただ、一定期間の別居があれば、5号に該当するとされる場合があるため(悪意の遺棄であれば悪意の立証が必要となりますが、「別居」については客観的なものであり、認定がされやすい)、最近では、悪意の遺棄が離婚原因と認定される例はあまりありません。

③3年以上の生死不明

生死不明というのは、単なる行方不明とは区別され、生存の証明も死亡の証明もできない場合をいいます。生存が推定される場合には生死不明にはあたりませんが、一方、死亡の公算が大である必要もないとされています。
生死不明の原因は問われませんし、過失の有無も問われません。昭和30年代までの戦地からの未帰還者にかかわるような裁判例はあったようですが、最近ではほとんどないようですので、実務上は本原因が裁判上で使われることはまずありません。

④回復見込みのない強度の精神病

民法770条1項4号の離婚原因は、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」となっています。本号の精神病とは、統合失調症、躁うつ病などの高度の精神病であり、アルコール中毒、モルヒネ中毒、ヒステリー、神経衰弱症、認知症などは、ここにいう精神病にはあたりません。ただし、民法770条1項5号に該当する場合はあります。

⑤婚姻を継続し難い重大な事由

5号は破綻主義離婚原因としての一般的条項であり、婚姻関係が破綻し回復の見込みがないことを意味するとされています。
婚姻関係の破綻を示すいろいろな具体的な事実から「破綻」という法的評価を加えるものです。「破綻」しているかどうかは、様々の要素によって判断されることになりますので、裁判官によって、破綻の判断が異なることもよくあります。
不和による別居は破綻を示す証拠の1つですが、別居しつつも時々は家族旅行に行く例などもあり、別居状態であれば必ず破綻が認められるものではなく、また、何年別居していれば破綻が認められるという明瞭な基準もありません。ただ、実務上は有責配偶者からの離婚請求でない場合は、3年以上が目安になることが多いです。また、逆に別居していなくとも、破綻が認められる場合もあります。
この点、双方の意思、言動、別居あるいは家庭内別居の有無とその期間の長さ、会話や交流の有無、口論・けんかの有無と程度、性的関係の有無、婚姻期間、円満であった期間の長さ、不和となった原因、信頼関係の破綻の程度、未成熟子の有無と年齢、子との関係、子の離婚についての意見、訴訟態度などにより総合的に判断されています。